神奈川の自宅に置いていた大量のCDを、スタジオにお引越しさせました。
中学生の頃にサクソフォーンに出会って以来、サクソフォーンのCDはもちろん、オーケストラや弦楽器・ピアノ・管楽器のソロや室内楽、吹奏楽など様々なCDを買い溜めて、気が付けば400枚近く。中には1セット50枚組なんてBOXセットもあるわけで、ディスクの枚数だけなら500枚以上はあると思います。
最近はAmazon Musicだとか、ナクソス・ミュージック・ライブラリーだとか、安価で手軽なサブスクリプションも増えてきて、ここ数年はCDを買ったり、ディスクをCDプレイヤーに入れて聴くことも少なくなりました。そこでサブスクリプションでは聴くことのできないようなCDはとりあえずパソコンにも保存しつつ、所有しているCDを長野のスタジオに移してしまおう、と言うのが今回に試み。
オーケストラのCDなどは、買って1度聴いたかどうかで棚の奥に入ってしまったCDも少なくなく、懐かしい、さらには初めて見るようなCDジャケットもチラホラ。でも中学校でサックスを初めてから、高校生の頃に東京の師匠の家へ伺ってレッスンを受けるようになるまでの5年近くの間、たまに生で聴けるサクソフォーンやクラシックのコンサートを除くと、私のサクソフォーンの音色や、音楽性を養ってくれたのもまた、これらのCDでした。
そんなたくさんの大切で素敵なCDですが、その中から特に私の思い出深いものをご紹介。
1枚目は私が中学1年生の時、初めて買ったサックス四重奏のCD、トルヴェール・クヮルテットのMy Favorite ThingsのCDです。吹奏楽部でバリトンサックスを吹いていた私は、バリトンサックスの音が聴けるCD、という認識で、このCDを手にしました。初めてでだいぶ刺激的なCDを手にしたものだと今更ながら思いますが、1曲目のチョーカッコいいMy Favorite Thingsが、サクソフォーンの世界にハマっていく一歩になりました。
数年前、小学校の音楽鑑賞教室の仕事で、このサックス四重奏のMy Favorite Thingsをバリトンサックスで演奏させていただく機会がありました。とても幸せいっぱいだったこの本番のソプラノサックスは、このCDでは私が何十回何百回と聴いたバリトンサックスを吹いている田中靖人先生。最初にこのCDを手にした時から、いつまでも憧れであり目標であり続けるCDであり、演奏であり、先生方です。
Berliner Philharmoniker, Herbert von Karajan「L’Arlesienne Suites Nos 1 & 2 / Carmen Suite」
2枚目はヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ベルリンフィルハーモニーによる、ビゼー作曲のアルルの女。有名なサクソフォーンのソロは巨匠、ダニエル・デファイエによるもので、CDにもクレジットされています。
このCDも、手にしたのは中学生の頃。本やCDのブックレットなどで、憧れのサクソフォン奏者の方々が、クラシックサクソフォーンとの出会いとして挙げていたのが、このダニエル・デファイエ先生の演奏でした。オーケストラのサウンドの中から浮かび上がる甘美なサクソフォーンの音色。その繊細だけれどまろやかな演奏は、学校の吹奏楽をわずかな年数しか経験していない中学生の耳には衝撃でした。
私の師匠、武藤賢一郎先生はパリ音楽院でダニエル・デファイエ先生のクラスで学んだ最初の日本人です。デファイエ先生のそのまた先生は、サクソフォーンの神様マルセル・ミュール。偉大な系譜の中でクラシックサクソフォーンの伝統が受け継がれていることを思うと、それらを学んできて、さらに生徒に伝えていく私自身も、気持ちが引き締まります。
ダニエル・デファイエのCDは、この他にもソロや四重奏などあります。以前は手に入りにくいものもありましたが、最近は貴重な録音の復刻もされ、聴ける機会も増えてきました。サクソフォーンを学ぶ人にはぜひ聴いていただきたい録音です。
The Art of the Jean Yves Fourmeau Saxophone Quartet
次は、ダニエル・デファイエの弟子でもあるフランスのサクソフォン奏者のジャン=イブ・フルモーの四重奏団のCD。J=Y.フルモー・サクソフォン・クァルテットは、やはり私が中学生の頃、初めて生で聴いたプロのサックス四重奏でした。今思えばなんて贅沢な!来日公演を松本のザ・ハーモニーホールに聴きに行き、すでに虜になっていたサックス四重奏の魅力に、さらにどっぷりハマったコンサートでした。その演奏会でこのCDを買い、終演後にサインをもらった数年後、音大生になってからフルモー先生のレッスンを受ける機会があり、緊張してレッスンを受けたことを覚えています。
アルモ・サクソフォン・クァルテット「フランスのエスプリ」
4枚目は高校生の時に手にしたCD。アルモ・サクソフォン・クァルテットのこのCDとの出会いも、私にとっては重要なものでした。CDでたくさん聴いていたトルヴェールクヮルテットや演奏会で衝撃を受けたフルモークァルテットとはまた違う、重厚なエネルギーと繊細なハーモニーに彩られた四重奏のサウンド。ベルノーのサクソフォン四重奏曲やドビュッシーの弦楽四重奏曲のサックス四重奏版など重量感ある内容とその演奏は、高校生の頃の自分が、目指したい音楽像を明確にしてくれたCDでもありました。このCDに出会ってしばらくして、高校2年生の時から音大入学までの間、このアルモを率いていた中村先生に師事して、私の本格的なサクソフォンの勉強がスタートしました。
Mari Kobayashi(Ms), Claude Delangle(sax), Jean Geoffroy(perc)「Japanese Love Songs」
5枚目は私が音楽大学1年生の時にいただいたCD。大学1年生の冬、パリ音楽院の教授として世界のサクソフォーン界を牽引するクロード・ドゥラングル先生が招聘教授としていらっしゃり、私もレッスンを受けました。この時、世界のトップのレッスンを少しでも長く間近で見たいと、片っ端からレッスンを聴講して、その流れでフランス人の先生が大好きなリンゴをスーパーに買いに走ったり。
2週間の招聘期間が終わり、最後に大学でリサイタルをされてその打ち上げの席で、その時の新譜に私の名前入りのサインを書いてプレゼントしていただいたCDです。
その後、大学院1年生の時にはフランス・ギャップでの講習会で再びドゥラングル先生のレッスンとマスタークラスを受けたり、数年前には私が演奏員を務める大学に招聘教授としていらっしゃった際にも、レッスンを聴講したりお話を伺ったり。私自身は短期間を除いてきちんとした留学経験も無いにもかかわらず、こうして度々、ハイレベルなレッスンに触れることができたのは、本当に幸せなことでした。
Steve Reich「Phases: A Nonesuch Retrospective」
最後はこれ。シャイ(?)な私は、音大入学以降はコンサートでCDを買っても、終演後の長蛇のサイン会に並ぶことは減りました。でも、大大大好きなミニマル・ミュージックの大巨匠、スティーブ・ライヒの公演は別。10年ほど前、東京オペラシティでのライヒの作品の公演の際、私が持っていたライヒのCDの中でも最もサインの描きやすそうな5枚組のCD(ノンサッチレーベルから出ていたCDのいわゆるベスト盤)をダメ元で持っていき、休憩時間に客席のライヒさんに直接いただいたサインです。私の前に数人、同じことを考えた人がいて、私の後には数十人、同じことをしようとしている人がいて、列ができていました。これだけは完全にミーハーな思い出です。
他にも、名盤・珍盤・その他色々な思い出の詰まったCDがたくさん。これらのCDを最も買っていたのは10〜20年ほど前のことで、今では廃盤になってしまったCDもあります。でも、その多くに思い出が詰まっていて、私を成長させてくれました。音楽を聴いて楽しむのはもちろん、演奏の腕を磨くために、お気に入りの演奏を見つけてたくさん聴き込むことも、良いトレーニングです。
最近はYouTubeでタダで観れる良い演奏もありますが(私もいくつかアップロードしていますが)、商業のために数百万円かけて作られるCDは、レコーディング環境も、エンジニアをはじめ携わる人の数も、そして例外はあるものの”大抵の場合は”演奏の質も、無料のYouTubeとは全く異なります。
ぜひ、お気に入りのCD、録音を数枚見つけてみてください。演奏技術のレベルアップ、そして人生が豊かになること間違いありません!
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